ピラニアつりの仕掛けは、アマゾンらしく釣り針と糸だけのシンプルな仕掛け。
よく言えばダイナミック、悪く言えば、手抜きの仕掛けである。
せめて重りくらいはくっつけてほしいところだが、ぜいたくは言えない。
いや、あるいはこの仕掛けこそがアマゾンに代々伝わるピラニアつりのための伝統的な仕掛けなのかもしれない。
そうだ、余計な仕掛けをつけると、えさが自然に流れないからピラニアが食べてくれないとか、そういう理由があるに違いない。
私はガイドを信用して釣りのコツを聞いてみた。
「食いついたら引けばいいよ」
そ
れはそうだろうが、よく言えばダイナミック、
悪く言えば、と言うか完全に手抜きの回答である。
もうちょっとなんかないんか、とは思ったが、
一刻も早く釣りをしたかった私は針に牛肉をつけてアマゾン川へ投げ込んだ。
すると、すぐに反応があった。ぴく、ぴく、という弱いあたり(魚の反応)が断続的に続く。
魚がえさを食っている証だ。
だが、まだだ。
いま引いても、魚は釣れない。いまはまだ、魚がえさをつついているだけの状態だ。
針が魚に対し、大きすぎるので、魚が針を口になかなか入れてくれないのだ。
もっと強いあたりを待たないと釣れない。私は手に伝わる感触に集中した。
そこに、ついに来た。魚が完全に食いついた証の強い引き。
私はそれを合図に、思いっきり、糸を引いた。
これで針が完全に魚の口に刺さったらしく、手に魚の抵抗が伝わる。
私はその抵抗にかまわず、力任せに一気に針をボートの上へ引き上げた。
その先端に魚の姿。それほど大きくはない姿に見合わない鋭い歯を持っている。
ピラニアだ。やった、ついに私はピラニアを釣り上げたのだ。
その後も私はさらに立て続けに3匹のピラニアを釣り上げた。
私以外はまだだれも釣れていない。
はっはっはっは。気分は最高である。
そんな私にクリスが針を手に、語りかけてきた。
なんだ、コツでも聞きたいのか。今は気分がいいから、君にも特別に教えてやるぞ。
「ねえ、その仕掛け、私のと交換してよ」
コツがあるとは思わんのか。
まるで私が仕掛けの力だけで釣ったみたいじゃないか。
仕掛けはみんな一緒だぞ。
ことわる理由は別にないので交換したが、なんだか不快である。
まあ、いい。この仕掛けでも釣って、見返してやろう。
そう思った矢先、クリスがピラニアを釣り上げた。
なんでや。
くそう、くそう、と思っていると、再びアタリがあった。
よしっ。。
私は思いっきり、糸を引いた。だが、抵抗はなかった。
さらに言えば、針もなかった。ピラニアに糸が食いちぎられたらしい。
ピラニアのような歯の鋭い魚を釣るのにこのような単純な仕掛けで挑めば、
そういうことも、ままあるだろう。
私はガイドに針の替えをくれるよう声をかけた。
だが、ここでガイドは信じられんことを言った。
「ない。一人一つだ」
ふざけている。
ピラニアつりで、針と糸だけの原始的な仕掛けで、
針がなくならないわけがないのだ。替えの針ぐらい用意しといてしかるべきであろう。
瞬間湯沸かし器のように一気に心の温度が上がった。
しかし、私は怒鳴らなかった。別に、怒りが収まったわけではない。
ただ、怒鳴ったとて、無駄とわかっていたからだ。
それになにより、私には秘策があった。中米のパナマで買って以来3ヶ月、
ずっと持ち歩いていたマイ釣り針があった。
ガイドに向かって仕掛けの残骸を投げ捨てると、
自分で仕掛けを作り、ピラニアつりを再開した。
すると、ぽんぽんピラニアが釣れた。
ガイドの用意した大きすぎる釣り針と違い、私の用意したものは
ピラニアの口にしっかりフィットしたのだ。
小さすぎるピラニアも釣れてしまうという難点はあったが、おもしろいように釣れた。
それを見たクリスが再び声をかけてきた。
「仕掛け、交換して」
わがまま大将か、あなたは。残念ながら、それはお断りである、と私が口を開こうとすると、
彼女は自分の仕掛けを私の前にかかげて続けた。
「針なくなったから」
彼女の仕掛けの先を見ると、確かに針がない。
ただ糸が風に吹かれて情けなく揺れるのみだ。
だが、これはボケなんだろうか。ツッコムべきなんだろうか。
「針がなくなった。このままじゃ釣りができない。まあ、まだ針のあるやつの仕掛けをもらえばいいよね。私が頼んだら、きっとくれるはず」
いくらなんでもこんな人間、いるわけがない、いるわけがないぞ。
「あほかおまえは」
と、ツッコムべきか激しくまよったが、万が一ボケではなかったら
大変なことになるのは火を見るより明らかなので私は丁重にお断りした。
それなのに彼女はとても不機嫌になって、ボートに座り込んだ。
自信を持って言おう。
おれ悪くない。
<続く>
次回→感動!ジャングルの朝日。格安アマゾンツアー3@ルレナバケ_世界一周旅行73
前回→デスロードを越えて。格安アマゾンツアー1@ルレナバケ_世界一周旅行71
コメント
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はじめまして
いつも(陰ながら)楽しく読ませてもらってます
楽しすぎてドミの宿でも一人吹き出してます
南米、時計回りなんですね
今クエンカと知ってびっくりです
ワタシ、反時計回りで今キトなんですが
かもねぎさんはリオバンバ行きますか?
そのうち合流できるだろうと楽しみにしてたんですがもし同じ町に同じ時に行けるなら会いません?
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>caim・灘区さん
嬉しい言葉、応援ありがとうございます♪
時計回りなんですよー。だから、あとちょっとで南米も終わりなんですよ。
申し出、ぜひお受けしたいです!でも、リオバンバ行かないんよー。ただ、むしろいまキトいます。
16まではいるんで、もしキトにまだいましたら、連絡いただけると…!
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>ねぎさん
うわぁ、そうだったんですね!
もうキトだったのかぁ、おしい
今日キトを出てLatacungaに来ちゃいました
残念ですがまた別の機会で・・・
これからもブログ楽しみにしてますねー
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>caimさん
ああ、もう出られてしまったんですね。残念。。。
そうですね、またの機会にぜひ☆
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クリスさんが自分そっくりなので、笑いました。
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>熊五郎のさん
あ人にそっくりなのはとてもよくないですよ。よくないです笑。