(前回記事からの続き)
ようやくゴロンドリナス洞窟のある村まできたのに、くたくたで観光する気にもならなかった。
私は村で唯一のインフォメーションオフィスに駆け込み、安宿の情報を聞く。この日ははやく寝たかったのだ。
しかしここで思っても見なかった事態が起きる。この村には安宿がないのだ。いや、厳密にはあるにはある。だが最低でも300ペソ(2200円強)前後はいるのだ。さらに、ゴロンドリナス洞窟に行くには、荷台を改造した軽トラックかタクシーのような車を500~600ペソでチャーターして向かう必要があるのだが、この日はなぜかゴロンドリナス洞窟に行く観光客が私以外にいない。
つまり、トータルすると800ペソ以上(6000円以上)は確実にかかる。明日人が集まることにかけてもよいが、それで集まらなければ一人で行くしかない。
高い。
もうちょっとなんとかならんのか、と私はインフォメーションの人間にたずねた。いや、もうインフォメーションの人間は職務は果たし情報は伝えているのだから、最早私の行動はごねた、といったほうが正しいかもしれない。彼らは村の安宿も紹介したし、ゴロンドリナス洞窟の行き方も教えている。その費用が私の予算に合わなかったとしても、それは彼らの責任ではなく、私のわがままである。
だがそんな私のわがままに彼らは一生懸命、こうしたらどうだ、と話し合ってくれた。私はスペイン語はさっぱりわからないので、彼らが何を話し合っているのかわからなかったが、それだけで十分うれしかった。
だから、これ以上迷惑をかけるのも申し訳ないし、田舎だからたいした危険もないだろうから野宿でもするか、と覚悟を決め、私は彼らに感謝の言葉を伝えそこをあとにしようとした。
しかし、その中の一人、人のいいおじさんを絵に描いたような細身の男性ケセリオが、ジェスチャーとスペイン語、そしてわずかに知っているらしい英語の単語を駆使して、自分について来い、と伝えてきた。
わけもわからず着いていく私。
ケセリオはずんずん進んでいく。途中、いろいろな人がケセリオに声をかける。またあるいはケセリオのほうから声をかける。田舎だからだろうか、メキシコだからだろうか、人と人のつながりが濃いようだ。
やがて、村の外に出た。そこでケセリオは通りがかった乗り合いのトラックに乗り込む。私も続く。暑い中、重たい荷物を背負っていて歩いていたため、風が気持ちよい。やがて分岐路の一つでそのトラックを下り、別のトラックにまた乗り込むと、とある看板が見えた。
SOTANO DE LAS GOLONDORINAS 3km
ゴロンドリナス洞窟まで、あと3km。ようやくここまで来たのだ。
トラックは進む。舗装もされていないがたがた道を、石を蹴散らし進む。ゆっくりと進む。
そして、たどり着く。
写真上:ケセリオと洞窟をバックに
写真下:洞窟上部より真下に向けて撮ったもの。
直径55m、深さおよそ400m、東京タワーよりも深い、深い、世界最大級の縦穴、ゴロンドリナス洞窟。
カメラはもちろん、肉眼でも底は見えない。淵に立つと、思わず吸い込まれそうになり、手をついて座り込む。淵に立つ際は命綱もついているし、落ちるわけはないとわかっていてもなぜかこわかった。
それでも何度も覗き込んだ。
夕刻になり、洞窟にすむ鳥が帰ってくる。けたたましい鳥の鳴き声の中、ケセリオに促され、私はそこをあとにした。
あとはアキスモンへ帰るだけである。ここまでケセリオのおかげでタダでこれたし、満足である。インフォメーションの仕事もあるだろうに、本当にありがたい。アキスモンに帰ったら何かお礼をせねば。
しかし、そう思いアキスモンに帰ろうかとする私をなぜかケセリオはゴロンドリナス洞窟の近くにある小さな集落に行くよう促す。なにか用事でもあるのだろうか、と思っていると、、彼はその集落のうちの一つの家へ入っていった。
そしてその住人となにやら話し始める。内容はわからないが、住人らしき女性二人とケセリオがたまにこちらを見る。私に関係のあることなのかはわからないが、話し合いは私が暇をもてあます前に終わった。
ケセリオが手招きをしている。入っていいのだろうか。
女性に頭を下げ、私はその家へと足を踏み入れさせてもらった。すると、椅子が出され、ケセリオからしばらく座って待っていてくれ、と伝えられる。ケセリオはなにやらこの家でやることがあるようだ。
時間をもてあまし、ぼーっとその家の中を眺めていたのだが、どうやらそこにはかろうじて電気はあるものの、ガスもなく水道もないらしい。薪で火をおこし、汲んできた水を利用して洗い物や料理をする。
メキシコでこのような生活を送っている人がいること、そしてその家の中を見させてもらったことに素直に感動した。
けれど、このときまだ私はさきほどのケセリオとここの住人の話し合いも、ここで待っていろと言われたことの意味もまったくわかっていなかった。今になって考えるともう少し早く気づいてもいいものを。
そうして、家の中を眺めていると、ケセリオは用が済んだのか、外から私を呼ぶ。
なんじゃいな、と思い、そちらへ向かってみると、ケセリオはその家の離れのような場所にいた。中には、今用意したばかりと思しき、ベッド。
ようやく私は気づいた。
この集落の住人の誰かの家だと思っていたそこは、彼自身の家。彼は、私をゴロンドリナス洞窟へ案内してくれただけではない。私の泊まるところまで心配し用意してくれたのだ。
あのインフォメーションでのやりとり。言葉はほとんど通じなかった。きっと彼は私が異国で言葉もわからず困っているということしか、わかっていなかったに違いない。でも、きっと彼はあの時、ただそれだけの理由で、素性もわからず言葉も通じない私を、ゴロンドリナス洞窟まで案内し、そして自分の家へ泊めてあげようと決めてくれていたのだ。
なんなのだ、あなたは。いくらなんでもやさしすぎないか。
ここに寝るので大丈夫か、と聞いてくる。断るわけがない。最高だ。ただ、Gracias、ありがとうと伝える。それしか感謝の念を伝える言葉を知らないのがはがゆい。
荷物を置き、ケセリオのお母さんの作ってくれた夕飯を食べる。彼女もまた、言葉の通じない私を気づかってくれる。うまいか、水はいるか、おかわりはいらないか、と。
正直、彼女の作ってくれた夕飯は味は薄く、お世辞にもおいしいとは言えないだろう。
けれど言わせてもらった。
「うまい、おかわり!」
ケセリオ、そしてその家族のみなさん、ほんとうにありがとう。
写真左上:ケセリオの家
写真右上:用意された部屋とベッド
写真左下:ケセリオの家のトイレ
次回→なにこれ!?洞窟から数万のツバメが!@メキシコ・アキスモン_世界一周17
前回→めざせ!メキシコのゴロンドリナス洞窟!@アキスモン_世界一周旅行記15
コメント
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なんてラッキーマンなんや!洞窟めちゃ深そうやな怖ええ~((^ω^))
てかウルルンすぎるwやっぱり外人から見たら日本人と思われてないんじゃ…w
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人間という字は、人の間にいると書きます。
金八先生が言っていました。
かもねぎさん、
いい旅してますな。
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かもねぎッ!
許す!!
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めっちゃええやん。
めっちゃ感動やん。
めっちゃ素敵やん。
島田紳助
(代筆、HP)
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>HPさん
紳助さんにそう言ってもらえるなんて、うれしいです!!
あ、HPさんもおつかれでーす笑
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>サンコンさん
いや、あれやろ、俺がさわやかすぎたからついつい助けてもうたんやろな。
・・・うん、すごいラッキーやった
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>イクナロックさん
いや、ほんといい経験させていただきました。
メキシコ人、ほんとに親切な人ばっかです
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>風でしょうか、いいえ余震です。さん
あ、ゆるされた。
やったぜっ笑