地上絵の秘密を解き明かす＠ナスカ_世界一周旅行78

世界の７不思議の一つ、ナスカの地上絵。
ナスカ北部の大地を土台として描かれた、当時の測量技術では描けないはずの巨大な絵。
だれが、どのような目的でこの絵を描いたのはいまだに誰にもわかっていないミステリースポット。

私の７不思議の一つ、ヒゲ。
私の顔を土台として生える、現在の育毛技術では生えるはずがない濃いヒゲ。
だれが、どのような目的でこのヒゲを生やしたのかはいまだ誰にもわかっていないミステリーヒゲ。

まったくもってそっくりである。
ナスカの地上絵に親近感を覚えたその全貌を見るべく私はセスナに乗り、さっそく空へと舞い上がった。

誰がミステリーやねん。

「あれが宇宙人だ」

機長が指をさす。その先に視線を映すと、頭部と目だけが異常に大きく、
関節の曲がり方のおかしい不恰好な人の姿が山肌に描かれている。

宇宙人には見えない。宇宙人だとしたら、実にへたくそである。

しかし、なぜか見覚えのある絵だ。確か、私が大学生の頃に見たものにそっくりだ。
なんだったか。思い出した。

私の描いた、人の絵だ。あの地上絵、宇宙人じゃなくて単純に描いた人に
美的センスがなかっただけなのではないか。見れば見るほどへたくそである。

鏡に向かって話しているようで心がいたい。

その後も飛行機は地上絵の上を次々と過ぎていく。
機長は、地上絵の上空を飛ぶたびに機体を、右側の席に座る私たちにもその反対の左側の席に座る人にも見えやすいように、
右へ左へと機体を旋回させては

「コンドルだ｣「オウムだ｣「木だ」

と指をさして示していく。

だが、どうもどれが機長の指すものなのかさっぱりわからない。
絵と関係のない線が無秩序に引かれすぎているとか、やっぱり絵がへたくそであるとか理由は様々にある。
が、なによりも、線の色が根本的に薄すぎる。

メガネをかけて目を凝らして、ようやく「あれかな？」と認識できる程度にしか見えない。
カメラで撮った画像など、目も当てられない。

せめてもっとも有名な地上絵である「ハチドリ」だけでも画像に残したい。
そう願い、機長の「ハチドリだ」の言葉を頼りに、右側を下にして旋回する機体の窓から、
はるか下の地上に向けて必死で目を凝らした。

すると、機体のほぼ真下にその姿が見つかった。
ハチドリは、かなりはっきりしていた。有名なのもうなずける。
私はカメラを構えた。

「次、左～」

機体が左へと旋回する。ハチドリは機体の真下に行って見えなくなった。
構えたカメラの先にはきれいな青空が広がっている。

……空は、きれいだな。

カメラのシャッターをパシャリ、と切った。
ハチドリは撮れなかった。

せめて、他の地上絵ですこしでもはっきりしているやつを残そう、と私はがんばった。
地上絵を発見してはシャッターを切っていった。

４０分の遊覧飛行が終わる。

空港で飛行機から降りて、デジカメの画像を見てみた。
地上絵の写真がいくつもある。けれど、薄すぎて何を撮っているかわからないもの、
ただ大地が映っているだけにしか見えないものが大半である。

私はデジカメの「画像削除」機能を使い、撮った写真の中から、
何を撮っているかわからないものを削除していった。

結果、いくつかの写真が残った。中身を見てみる。

「宇宙人」
「宇宙人」
「宇宙人」

ふざけている。
悲しく画像を眺める私の肩を、着陸後の飛行機の点検を終えた機長が叩いた。

「地上絵は見えたか？」
「まあ、ハチドリと宇宙人は」

他は全然でしたけどね。という言葉は飲み込んで笑っておいた。

「今日は快晴だったから、よく見えたな。君は運がいい」

あれでですか。そうですか。
なんだか新手の詐欺にかけられたような気分である。

握手をかわし、去っていく機長の背中を私は呆然と見送った。

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