バスが停止した。ボリビアの実質的首都ラ・パスの直前のことである。
発展途上国ではこのようなことはまま起こる。
こういう時、軽い故障などであれば運転手なり、同乗するバス会社の職員なりがエンジンなどをいじれば、
その後バスは何事もなかったかのように動き出すのだが、今回はバスは一向に動く気配を見せない。
これはどうしたものだろうか、と私を含む乗客に疑問の空気が流れるそこへ、運転手から説明が入る。
当然のようにスペイン語なので詳しくはよくわからないが、
どうもこのバスはこれ以上は動けない、といったニュアンスの言葉を口にしているようだ。
故障だろうか。残りあと10km程度とはいえ、歩くのはしんどい距離だ。
ボリビアでは故障の際の払い戻しなど当然ないので、金は余分にかかるがバスを乗り換えるしかない。
「このバスは動かないから他のバスに乗るんだな?」
おおかた「そうだ」という答えが予想されることではあるが、念のため運転手に尋ねた。
バスを降りた後、万が一にでも、実は少し待てばこのバス動きます、ということだったら、
私はとんでもないバカを見るからだ。
スペイン語の聞き取りがほとんどできない私は何事も再確認という余分な作業を強いられる。
だが、運転手の答えはこの私の作業に意味を持たせた。答えは「ちがう」とのこと。
「お、ということは動くのか?」
と希望を抱いて聞いてみた。しかし、それも「ちがう」とのこと。
どういうことだ、と頭をひねっていると運転手は一番残酷な形の答えをよこした。
「道が閉まっているから、歩け」
この瞬間、ラ・パスまでの10kmの道のりを全荷物、18kgを背負って歩くことが決定した。
私、高山病ようやく治ったところだぞ。
高山病、激しい運動すると再発すると身をもって味わったばかりだぞ。
いじめか。
いや、まて、私。ポジティブに考えるのだ。
人生山あれば谷ありである。
高山病になったかわりに、ウユニの鏡張りが見れたではないか。
ということは、この10kmを歩ききった先には、すばらしい何かが待っているはずだ。
そう、道端で出会った美少女に唐突にプレゼントを貰ったり、
告白されたりするかもしれんではないか。ポジティブに考えろ、ポジティブに考えるのだ。
「あなたが好きです」というスペイン語なんてしらないことなんて忘れるのだ。
いや、しかしもし言われたらどうしようか。
わからないスペイン語には「ノーエンティンド(理解できない)」という言葉を素直に返す、
これが今回の旅での私の常なのだが、それをそのまま当てはめると
「あなたが好きです」
恥らいつつ告白してくる美少女へ感極まってかえす私の言葉は
「理解できないよ」
なんてやつなんだ私は。
私はこんなありもしない妄想をめぐらせつつ道を歩いた。
正直、道は長いわ、荷物は重いわ、高山ですぐに息は切れるわで、なにか別のことを考えておかなければやってられんかったのである。
そうして2時間も歩いたあたりで、道の雰囲気が変わりだした。
活気が出てきたのである。道には屋台が並び、食事を取れるようになった。
私はほっとした。これはきっとラ・パスが近いということに違いない。
休憩代わりに屋台で飯を食って元気を取り戻した私はこれが最後と、足にいっそうの力を込めてあるいた。
そして2時間。
ラ・パスはどこにも見えなかった。道端の屋台は延々と続いている。
どうも近くの村々の人々が「これは商売のチャンス!」と集まってきていただけのようだ。
商売熱心でいいことですね。
ふざけてはいけない。
なまじ一度、「あと少し」と思ってしまったせいで私の疲れは倍増した。
何度も道端に座りこみ、かめのような歩みで進むしかなかった。
その私の前にある集団が現れた。インディヘナのおばはんである。
ボリビアの国旗を囲むように道の中央にどかん、と座っている。
その向こうでは彼女達の家族らしき男や、子供達が遊び、石が道を塞ぐように置かれている。
こいつらがこの道を封鎖している原因だ。
くそう、このあほども、どうしてくれようか。
ここは一つ、日本人代表としてガツンと言ってやらねばなるまい。一度はそう思った。
だけどよく考えると、彼らにも事情はあるのだろうし、
それを一方的に責めることは私にはできない。
決して、彼らの人数がすごく多いだとか、道を封鎖するようなやつはちょっとこわいとか、
そんなことを考えたわけではなく、できないったらできないのだ。
私は愛想笑いを浮かべて彼らの横を通り過ぎた。
まあ、コレさえ過ぎればもうラ・パスだ。
とおもったら、その封鎖地域は1時間歩いても抜けれなかった。
いい加減にしてほしい。
そんなに広範囲封鎖しないでもいいと思う。
私はすっかり疲れきってしまった。
かめの歩みはなめくじの歩みに進化した。
少し進んでは休憩し、棒のようになった足を引きずり、這いずるようにして歩いた。
何度目かの休憩の際、「だいじょうぶ?」と声がかかった。
みると、おばばが心配そうに見ている。
口を利くことさえしんどかった私が力なく首を振ると、
彼女は私に菓子をくれ、「がんばって」と励ましてくれた。心が温まった。
だけど、よく考えたら原因あなた達でしたね。
そのさらに少し後の休憩の際、倒れている私に今度は5才くらいの女の子が寄ってきた。
手にはみかんを持っている。それをおずおずと差し出す。かわいい。
ありがとう、と受け取ろうと私は手を差し出した。
すると、それを見た女の子はみかんをぶん、と私の前の道路に投げつけた。転がるみかん。
くれるんじゃないのか。
戸惑っていると、彼女はそれを拾い、もう一度私の前の道路に投げつけた。再び転がるみかん。
どうしたいいのだ。
とりあえず拾って、「くれるの?」というと、みかんを私の手から取り、
もう一度投げつけて去っていた。どういうこっちゃ。
去っていったほうを見るとその親らしき女性が笑いながら、食べろ、食べろと言ってくれる。嬉しかった。
だけど、原因あなた達でしたよね。
ひょっとして、高山病のお返しがウユニ鏡張りだとすると、
10kmのお返しはこれでおわりなのだろうか。そんなあほな。ラ・パスに着いたときには疲れ果てていた。
「今日の予定、だめんなったわー」と、宿の主人に言うと「無料トレッキングだ、得したな」とのこと。
ああ、得した。得した。
ふざけてはいけない。
次回→イッテQに挑戦?ボリビアのワイナポトシ山6088mを素人が登山1@ラパス_世界一周69
前回→世界一の絶景?憧れのウユニ塩湖をジープで観光@ウユニ_世界一周旅行記67
<参考情報>
在ボリビア日本大使館領事班の掲示板
※道路封鎖情報も載っているらしいです。世界一周終わってから知りました 泣
コメント
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ひゃー(((( ;°Д°))))
私のバックパックも18㎏くらいあるので、そのバックパックを背負いながら歩く辛さがわかります;;
大変でしたね><続きが気になります。
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>咲子@世界一周さん
大変でした。高地ってのがなおさら…。